人志松本のすべらない話「略礼服」

すべらない話トーク

 

小藪
小藪

あのー、僕の妹がですね、何年か前に結婚したんですけども

名古屋の「松河屋老舗」という、まあ、おまんじゅう屋さん

大きいところなんですよ。百貨店とかにも入ってる

凄い大金持ちの所に嫁ぐことになったんですよ

「あ、やりおったな!」と思ったんですけど

うちとしては、ちょっと大騒ぎじゃないですか

 

僕、そのとき漫才師やったんですけども

全然売れない漫才師

名古屋には名前とどろいていない

髪型までアホみたいな金髪にしている、と

ちょっと、妹に恥をかかすな、と

向こうの旦那は、いわば伝統芸能の、なんかクラブに入ってて、みたいなことになってるし

全然ちょっと、家柄が違うんですよね

こりゃかなわんなーと、思ったときに

 

「あんたあの、式出るときは略礼服着いや!」

 

…って、おかんに言われたんですよ

略礼服ってなんやねん?って言うたら

「普通にスーツで行くんやろ?若者は。ちゃうねん」

ここ(スーツの襟)が太いやつあるじゃないですか

おじさまが、結婚式の時に着てるビロビロの

そんな感じの(TKO木下の服装)襟のところの

木下
木下

はいはいはい!

松本
松本

そんなんで行かなあかんの?

それを略礼服といって

そうなんですか?

「そういうので行かなあかん!」と

「そういうのじゃなきゃ失礼にあたる」ってなったから

それ、ちょっと嫌やなって思ったんですけど

まあ、妹に恥かかせちゃいけないということで

「そんじゃあ、分かった。行くわ」って親に金貰ろて

ほんで、買いに行こうかなって、バーって行ったんですけど

百貨店のって、ちょっと高いんですよね

「まあ、どうせこんな時しか着ないし、安いの買おう」って思って

そんでバーって行ったら

 

ここの紳士服屋、どうやって生計立ててんねやろ?っていうくらいの

こう、静かな紳士服屋さんあるじゃないですか

はいはいはい!

大阪の下町ですから

そこ見たら「略礼服1,9800円」って書いてあったんですよ

ちょうど良い、これ行こう!思って

 

すみません

あれ、どないしたの?兄ちゃん

あのー、略礼服欲しいんですけど

ほー、珍しいな!略礼服あれば、どんな所にも行ける!冠婚葬祭全部行けるで!

でも、最近の若い奴は着いひんけどな

なんでそれいるねん?

いや、妹が、こうこうこうで、こういうことで

ああ、そうか。それはもうな、恥かかせたらあかんな

ええな。お兄さんとして立派や!

よっしゃ、俺が見たろ!

って。バーってやって

これ、どうですか?

って

 

ほなら、日曜日やったんですよ。結婚式

その日、金曜日やったんですけど

ほんまはまた明日、取りに来てもらわなあかんけど、妹さんのためや!

お前1時間、どっかで飯食うてこい!

俺がちゃっちゃっとやってやな!裾バーっとやっとたるからな!

おお!

めでたいから、俺がやっといたる!早くどっか飯食いに行け!

って

僕、食べてきてたから、ちょっとお腹一杯やったんですけども

ははは!まあまあ、ね。

そこは「行ってきます!」言うて

まあ、本屋で立ち読みして

ちょうど1時間くらい経ったから帰ってきて

食うて来たか?

「はい!」って

まあ、嘘つきながら

よっしゃ!これ、できたぞ!

妹さんによろしくな!立派な結婚式挙げたれよ!

って、わけ分からんこと言われて

「ああ。分かりました」

 

で、僕、帰ってきたんですね

「買うてきたか?」

「うん」言うて

 

で、まあ(結婚式)親とか先行くじゃないですか

で、僕は近鉄電車っていうのに乗って

1人だけ遅れて、こう、バーっといったんですね

ほんなら「小藪家 控室」みたいなのあって

「あ、ここで着替えるん?」

「いや、着替えるのは5階の所にちっちゃい所あるから」

「そこで着替えといで」って

もう、大安の吉日ですから。大きいホテルに人、ブワーおるんですわ

千原ジュニア
千原ジュニア

はい

「ああ、分かったわ」って言って

まあ、着替えに行って

 

そしたら、5畳くらいの狭い部屋なんですけど

そんなんあるって知らなかったんですけども

細長い、こう、鏡が

姿見が3つ、こう(並んで)あるんですね

僕入ったら、おじさまたちが着替えてるわけです

「あ、こういう所で着替えんねや、へー」って

で、こっちにおじさん(左)

こっちにおじさん(右)

1個空いてるから(真ん中)

「僕も着替えよう」ってバーって全部脱いで

 

シャツ着た

ネクタイ着た

(服)かかってる順番って、次ズボンやのに

先に上来たんですよ

で、上着た

「なんか、パンイチって変やな」って思いながら

次、ズボン。パッて履いたら

 

半ズボンやったんです

 

ここで切れてたんです!(膝下)ここで!

で、それが半ズボン用にシュって(真っ直ぐ)なってるんじゃないから

こういうの(裾が広がるタイプ)を切ってるから

フワッフワフワッフワしてるんです!

 

俺、一瞬分からんくなって!

 

こうしたんやけど(ズボンを履く)

(首を傾げる)あれ?

ええ!?

もう目の前、銀色やったんです

銀色って(笑)

 

で、パッて(左右のおじさん)見たら

長ズボン

長ズボン

半ズボン

 

……いや!あかんがな!!

 

「うわ!どうしよう!?」思って!

完全に半ズボンの裏、クリってなってブワー縫うてあるんですよ!

丁寧に!

なんやねんそれ!?

「どういうことやねん!?」とか、考えてるんですけど

もう式始まるから

「そんなん言うてられへん!」

「原因はどうでもええ!」と

おっさんの腹立つ顔とかも思い出しましたけど!

「いったん、おっさんは置いとこ!」思って

 

「この半ズボン、どうしたらええねん!?」って

「半ズボンで出ようか?」

「…いや、それはあかん!」

そりゃそうや!

 

「もう、おかんや!おかんしかおらん!」って電話して

もう(横の)おっさんとかも(こっち見て)「は?」ってなってるんですけど

もう、恥ずいとか、そんなん関係ない!と

 

「おかん!あのな」

 

「略礼服、半ズボンやねん!!」

 

おかん「何が?長ズボンやがな」

「いや、ちゃうちゃう!その長ズボンが、半ズボンやねん!!」

「何が?わけ分からん、あんた。まあ、とりあえずおいで!」って

「分かった!」って言うて

もう、それ着たままブワーって行ったんですね

 

そんで、エレベーター、こう、待ってたら

もう、子どもたちが見てクスクス笑ってんですよ

「かまへんかまへん、そんなの関係あらへん!」と

「お前、関係ないやん。なんや?」って、ちょっと不良ぽくメンチは切ったんですけど

 

そんで、エレベーター、ブワーっと降りてったら

もう、100人か200人ぐらい、大きいロビーに人おるんですよ!なん会場もあるから

そこを抜けないと、小藪家の控室行けないんですよね

おお…

で、エレベーターの隙間からこないして(嫌そうな顔で)見ながら

「うわ…ここ行くんか!ちょっと恥ずいな…」思たんですけど

もう、時間もだんだん迫ってるから

こう、すすすすすって泥棒みたいな感じで

すすすすすって、こう、早く行ったんですね

そしたら

 

「わー!半ズボンや!半ズボンや!!」

 

って、ドッ!て笑われたんです

めっちゃ恥ずい姿で、もう!

また(小藪は)でかいから目立つねんな!

そうやな!

相手方の親戚に見られたらかなわんと思って

「うわー、見られたないな」って思って

小藪家の控室、なんとか行って

(ドア)バッ!って開けたら

 

もう、おっさんとか親戚のおっさんドカーン!!笑ろて!

 

「半ズボンってこれかー!!」って!

 

いや、ちょっと待ってくれ!と

いや、おもろいのは分かる!と

意味分かると笑うけど!

「笑うんちょっとやめて!」言うて

みんなも「お前が最初から半ズボン履いて来たから、そういう服に見えてくるわ!」

「あはは!」言うてて

もう、お年玉くれたおっさんとかにも、だんだん腹立ってきたんですよ!

今までの思い出を対価に、何笑ろてんねんお前!って

そりゃそうやな!

腹立つわな!

親戚の万金で飯食ったときの、あのじいさんなんやねん!と

ほんなら、おかんが向こうからバーってきて

 

「あんた、そんなん!だから言うたやろ!1回着とけって!」

「いや、そんなん今言うてもしゃあないやんけ!そんなもん!」

「もう半ズボンでいい!」

「半ズボンはおかしいやんけ!俺に言うてもしゃーないやんけ!」

とかって、おかんとバーっと揉めてたら

 

その親戚の中の、1番長老的なおじいさんが

 

「貸衣装があるがな」

 

って言うたんです

渋っ!

ほんだら、俺とおかんが

「いや、だから!そんなん…!

 

(ニコッ)

 

ってなって

一瞬にして、こう、お花畑の世界になりましたよ

お花畑になったんや

 

「よかった~!そうやわ!」

なるほどな~!

「貸衣装やわ~!」言うて、行こかな!って思ったら

また半ズボンのまま、さっきのロビーを通らなあかんことになって

「うわ、どうしよう…。まあ、しゃーない!」

こそこそこそって行ったら

 

「ほらほらほらほら!!」

 

って!1回通って

「半ズボンおったで!」

「半ズボンなんておるわけないやろ!」

「おんねんって!」

「ほらほらほらほら!!」

みたいなってて!

笑い倍になってんですよ!

 

ほんで、貸衣装の所に行って。まあ、借りて

ことなきを得た話なんですけど

上と下がちょっと違う、微妙な黒の違いでお写真を撮ったという

なんとかなりましたけど

そんなんあるんやな~

なんでやろ?

 

で、翌日(店に)電話したんですよ

「すみません。半ズボンやったんですけど?」

なんて言うんかと思ったんですね。気のいいおっちゃんやったから。そしたら

ああ、そうですか!すみません!

って。タメ口やったのに、物凄い敬語で

申し訳ない、すみません。半ズボンでしたか、すみません!申し訳ございません!

って

全部、上も持って来ていただいたら、さらに変えますんで!すみません!

「いやいや、あの、ほんまに。式終わったんで」

いやいや!本当にもう、あの、すみません!申し訳ございません!

 

でもどうしてこんなこと起こったんですかね?

 

って、知らんがな!!そんなの!!

なんでお前が!?こっちのセリフや!!なんで疑問形なん!?

「なんででしょうね?」ってなりましたけどね

結局、気付かぬままでね。その惨状にも

その質問も腹立つな!?

辛かったです